blog 13.10.29(火) Blog 4回目
女流新人3作家くらべ
三浦しをん、山口恵以子、桜木紫乃の3人。
最近に至り、ボクが初めて彼女らの小説を読んだ順に 挙げてみるとこうなる。
ここに女流新人というのは、単に今までボクが読んでこなかっただけのボクの目から見る新人のこと。だから三浦しをんについては全くもって正しくないのかも。
三浦しをん
〔1976/東京生まれ〕はボクが映画でしか見てない「まほろ駅前多田便利軒」で06年直木賞。彼女は多作のタイプで、既に十分売れっ子スジの作家。
山口恵以子
〔1958/東京生まれ〕は今年の松本清張賞、しかしスタートはテレビドラマのプロット作家で、多くの「話を作る」仕事をこなしてきたヴェテラン。
桜木紫乃〔1965/北海道生まれ〕は今年の直木賞、02年「雪虫」でオール讀物新人賞、12年「LOVE LESS」でも直木賞候補。
みんなもう若くはない、ということかな? 芥川賞と比べると。
以下、読んだ順の寸評、、、さっそく書いてみることに。
山口恵以子と桜木紫乃はテレビが両賞受賞のニュースを流したとき、いい感じに並んで映り気になった。
山口は「賞金の500万円は全部飲むのに使います」とか「父からは(サケは水で割るな)と言って育てられました」とか、なかなかのインタビュー切り返し術を持っていた。
次にインタビューを受けた桜木紫乃は「父が北海道でラブホテルを経営し、わたしに色々の人生を見せてくれたことに感謝しています」と、なかなか殊勝なことを話していた。
二人ともここで、母親の事はしゃべらなかった。
山口恵以子『月下上海』
は戦時中上海の話。上海には欧米と日本の租界があったが、米英に宣戦布告したときからこの都市を、日本は丸ごと占領していた。
* 1941年12月8日に始まるアジア太平洋戦争は「真珠湾」急襲から、というのが常識だが、まずは日本軍による上海共同租界進駐として始まった。
訳あって本土から逃げるようにその地に渡った美貌の画家(=大手海運会社令嬢)が物語の主人公。その彼女が、大陸で一仕事を画策する憲兵の罠にはまることになる。その彼をはじめとした様々な人との出会い。日本降伏による思わぬ別れが待っていた。
彼女が出会ったのは憲兵の他にも市井に混じる国民党の工作員、いわく付きの元の恋人、それらの個性ある人間たちが次々に話の舞台に呼び出されてくる。
先に筋を言っちゃおしまいなので、これ以上粗筋は書かないことに。読めば飽きない面白さ。しかも、やっぱりテレビドラマの面白さ、、、お里を知って読むと感想にも色眼鏡、ということかな? まさに松本清張賞なのでした。
特に、この作品の最後にきて、この憲兵を彼女が許す内心の変化とは、、、ボクにはそれが?(
はてな、ハッキリ書くなら気に入らない)
彼女がNHKの取材を受けたとき、現在、社員食堂の調理員としてまじめ?に働く様子や、賞金をはたいて友人とホテルでディナーに興ずる様子が写された。このテレビでは、彼女がこの作品を書くにあたり肝腎の上海にも足を運んだことがなかったので、受賞してから確かめに見に行ったところも見せていた。彼女には現場を見なくても作品を書いてしまえるリサーチ力がある、ということだ思う。
* 社員食堂の調理員をしていることを、本人は「安定した収入が無ければ、自分が本当に書きたいモノを書き続けることができない」と話している。根性があるなあ。そうやって頑張る彼女が貰った松本清張賞の賞金500万円はすごい。でも彼女は一回限りの=あぶく銭の500万円を当てになどしないのだろう、そんなにムリに飲まなくてもいいとは思うが。
蛇足ながら、三浦綾子『氷点』の朝日新聞社賞は1000万円(今ならその5倍といったところか)で、それがいかに破格であったことか。
桜木紫乃『ホテルローヤル』は7編からなるオムニバス。適当な単章を選んで読んでもかまわないように書かれている。
第一章「シャッターチャンス」で、国道からは奥まったところに、数年前に廃屋となった安普請のラブホテルが見えてくる。廃屋でのモデル撮影といういかがわしき趣向。
パートの高齢女性を2人使い、結婚できない女(愛人と遁走してしまった父親〈=オーナー〉の娘)が細々と営なむラブホテルの日常。
etc(途中の各編割愛)
最終章「ギフト」では、愛人に身籠らせ、一儲けできるつもりでこのホテルを建て、将来に希望を託して「ホテルローヤル」の名を付けた、そんな俗物の父親の姿が現れてくる。これで一連の物語は振り出しに戻ることになる。この愛人が産んだ子とは誰なのか? 通して読めば、おのずとそれも分かる。
作品の狙いが私小説ではなくとも、作者の体験が行間に巧みに組みこまれているに違いなく、それだけに物語の舞台が細部まで視覚的に現れてくるから面白い。悲劇が喜劇でもあるという余韻(ペーソス)があり、なかなかよい出来だと思う。
追記 2013.12.17.
桜木紫乃『氷平線』 文春文庫 2012年4月 第1刷、2013年7月 第2刷(単行本 2007年)
近所の図書館で見かけたので、寝床読書にあつらえ向きと思い借り出した。
6つの短編を収録している。
冒頭の「雪虫」が02年オール讀物新人賞受賞作。
表題作は最終章に配置されており、また哀切なこの物語の結末シーンから持ってきた題が氷平線(水
平線ではない)である。
どの作品も物語の舞台は北海道。彼女は釧路市の生まれで、育った風土への愛着とそこに育った者ならではのディテールが北海道特有の四季の移ろい(雪は不可欠)の中に旨く配置されている。物語りごとに悲しみもあれば希望もあるが、少しレトロな雰囲気に包まれていて、そのあたりの味わいが悪くない。
彼女の描く恋愛はすべてプラトニックではなく、性交渉の場面表現は具体的で隠微なものを感じさせない。一世代前の作家が表現に手間取ったことを思えば、このあたりに隔世の感がある。
三浦しをん『小暮荘物語』
もオムニバスで、空き室もある木造ぼろアパートを舞台に、各章の主役として代わり番こに登場するのは、先ずは奇妙な入居者たち。また、もともと別に持っている自分の家の事情から101号室に単身入居した初老の大家。はては仕事の行き帰りにいつも通りがかる人まで。

描かれているのは現代の風俗ともいうべきもので、あえて書くなら、皆生き生きと、自らの生を姿勢を低く構えながら生き抜こうとしている。国に何かをやらせようというような声高な自己主張は決してしない。
そこが、為政者と市民は対等に渡り合うぞと意気込んでいたボクラの4,50年前と全く違う。登場人物たち個々人が、金魚鉢に飼われたメダカように、小走りは出来ても逃げようのない小宇宙で自足しているように見える。
にもかかわらず、他の作品(といっても先日紹介の3冊と映画2本しか知らないが)同様に、作者の黒い瞳がみつめる人間という生き物の生態は向日的。
この、閉塞(たとえば貧乏)と開放(たとえば万人平等にそなわっている性)の渾然一体感がおもしろい。文体があえて軽めにしつらえてあることにもよるようだ。しかし何となく読後に満腹感が得られないんだけどなあ。
ボクが読んだ三浦の4作に限れば、『仏果を得ず』がいちばんお徳感がある。もちろん 『舟を編む』も、話しの奥行き感においてなかなか面白い。
ちょっと寄り道
連城三紀彦がつい先日(2013.10.19.)、65歳で亡くなった。
ボクは彼の作品を1作しか知らない。それはいまも彼の代表作とされる『恋文』で、先に映画、ついで文庫本という順だったが、原作を読んでみて、つくづく彼の会話文の旨さに感じるものがあった。
ボクの連城との”出合はそれで終わり”という結果になったが、改めて思うに先述の女流3人も会話の繋ぎがとてもうまい。それゆえ、作家が作る人物像に寄り添うのに、読者は高い敷居をまたぐ必要が無い。
* 『恋文』は84年直木賞、翌年映画化、監督:神代辰巳、主演:萩原健一
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